連載:一月一話

第5回 2022年9月

お饅頭、あれやこれ。

四季や年中行事と深くつながる和菓子の世界。
今回の主役『お饅頭』も、種類によってさまざまな季節やシーンに登場します。たとえば春なら、祝い事に使われる『紅白饅頭』。時期を問わない縁起物ですが、入学・卒業シーズンの3~4月が、1年を通してもっとも出番の多い季節です。
祝い事の紅白饅頭と言えば、その対となる弔事にも、お饅頭の文化はあります。いわゆる“葬式饅頭”と呼ばれるもので、日本のほとんどの地域にそれぞれ特徴のあるお饅頭が根付いています。みなさまのお住まいの地域には、どんな葬式饅頭があるでしょうか。

五勝手屋のある北海道では、半月型の『中花饅頭』と呼ばれるものが、お供えや香典返しの定番です。『中華饅頭』とも表記することから、北海道外の方からは肉などのタネを包む『中華まん』を想像されることもありますが、こちらはれっきとした和菓子。どらやきのような生地であんを包んでいます。

北海道の葬式饅頭である「中花饅頭」。近年はほとんどの葬儀で見かけなくなりましたが、文化として根付いています。(写真は五勝手屋の中花饅頭。通常のサイズの半分くらいの大きさで、通年、店頭で販売しています。)ちなみに、作り手としては、お饅頭の主役はあくまでも「あん」で、いかにあんをおいしく引き立てるかが皮の仕事だと思っています。

ところで、お饅頭の世界はとても自由な世界です。定番と言えるものだけでも、葛饅頭、酒饅頭、かるかん―、そば―、麩―、利休―、田舎―、温泉―、薄皮―、もみじ―、織部―などなど、いくつも種類があるように、皮の素材、中のあんの種類、作り手の発想力や地域色などの組み合わせで、全国津々浦々、数えきれないお饅頭が存在しています。この今も、どこかで新たなお饅頭が生まれているかもしれませんね。

自由といえば、真っ白な皮をキャンバスに、自由にモチーフを描くことのできる薯蕷(じょうよ)饅頭は、その特徴から、季節を表現する上生菓子に重用されます。
そこには、ときに焼き印で、ときに刷り込みやぼかしという技法でモチーフを描き、自由に四季を表現します。五勝手屋でもこれまでに、夕焼けと飛行機(3月)、かえでの葉(6月)、赤とんぼ(8月後半)など、季節の情緒をさまざまに描いてきました。今月は何を表現しようかと考える、その時間も楽しいひとときです。

薯蕷(じょうよ)饅頭の「薯蕷」はやまいもを指し、お饅頭の真っ白な皮には、すりおろしたやまと芋や山芋(五勝手屋ではつくね芋)が練り込まれています。「上用饅頭」とも言います。

薯蕷饅頭では「うさぎ」を多く見かける9月。一年でもっとも月が美しく見えると言われ、そして私たちには、その美しいお月さまにお供えものをするという素敵な風習があります。お饅頭もそのお供となって、月を称え、お祝いします。

朝夕の冴えた空気に、秋の訪れを感じるこの季節。十五夜といわずとも、夜空に浮かぶ月が見えたときには、この季節ならではの美しさを楽しみたいと思います。