連載:一月一話

第15回 2023年7月

日日是羊羹。

「昔の羊かんはおいしかった」とお客さまに言われることがあります。どんな羊かんだったのでしょうか。思いを馳せます。

一口に「昔」と言っても、明治、大正、昭和と時代があるように、五勝手屋の羊かんの原料も、ずっと同じ金時豆ではありません。その時々で育てやすく収量の良い金時豆が品種改良によって生まれ、おそらくその度に豆を吟味し使っていたはずです。
なお、ここ50年ほどは【大正金時】のお世話になっていますが、もう少し先の未来では、大正金時の時代を終え新しい品種を使っている可能性も見えてきました。

…それにしても、こうやって時間を行ったり来たりして考えていると、昔のことがわからないのと同じように、未来の羊かんについてもわかることは本当に少なく、どちらにしても経験をもとに想像するほかありません。
そんな中、戦後から昭和30年代頃まで五勝手屋が丸缶羊羹の原料にしていた【紅金時】が江差町の取り組みで復活しました。これにより、想像の中だけで見つめていた“昔の羊かん”のひとつを復刻することが叶いました。

復刻の丸缶羊羹【かつて】。復刻にあたっては、砂糖の一部をあえて焦がす、現在の羊かんより長時間練るなど、ガス釜や直火だった当時の製造環境での仕上がりを疑似的に再現し、昔の羊かんの味や風味に仕上げました。ラベルも当時のデザインを使用しています。

さて、この紅金時をきっかけに、もうひとつ試みたことがあります。
過去と現在があるなら、未来の丸缶羊羹も食べてみたい。あくまで可能性のひとつではありますが、原料にはおそらく今後台頭すると思われる新種の金時豆【秋晴れ】を使い、過去・現在に続いて未来の丸缶羊羹もつくってみたというわけです。
この丸缶羊羹には、本来さらしあんにはよくないこととされている豆の皮を入れています。皮の持つ旨味を活かし、食感は“さらしあん”だけれども味は“つぶあん”というあんです。

未来の羊かん【これから】。ラベルも未来仕様です。なお、皮を使うことが“よくない”というのは、かさ増しを目的とした場合で「さらしあんに皮を入れるのはケチなあんこ屋のすること」という負のイメージがあります。しかし、それを払拭するおいしさならば、負のイメージを変えられるのではないでしょうか。

経験と想像から生み出した今回の丸缶羊羹ですが、過去を見つめて思うのは、いつの時代の羊かんにしても、日々日々、その時々の作り手が、その時々でおいしいと思う羊かんをつくり続けていただけ、ということです。
そして、その日々の連続で今があり、未来がつくられていくのだなと。

【かつて】【いま】【これから】。
それぞれ異なる金時豆の丸缶羊羹。並べると3つの点がつながって、一本の線が見えてくるようです。
さあ、その線の上で、私たちと羊かんのお話はこれからも続いていきます。

(左)ドライいちじくの中にあんを詰めた『回/Re-Fruit』は“現在”の私たちが生み出した新しい羊かんです。(右)はあえて羊かんを柔らかく仕上げた『夜更けて』(羊かんを柔らかくすることは、“羊かんの腰を抜かす”と言って、これも本来はタブーとされています)。カラメルの苦味が効いた羊かんです。