連載:一月一話

第18回 2023年10月

田舎暮らしの一場面。

「近々江差町に引っ越すかもしれません。
江差町は住みやすい街でしょうか?田舎なんでしょうか?」

インターネットの某掲示板に、こんな質問があがっているのを見つけました。質問の日付は10年ほど前のものでしたが、そこに返されていたいくつかの回答がなかなか的を射たもので、良いご意見もそうでないものも、面白く読みました。

回答の内容をおおまかにまとめると、江差町はこんなまちのようです。
・風が強い町
・買い出しのため函館まで片道2時間のドライブが毎週の恒例
・冬は北海道内で最も温かい
・車がないと生活できない、一人に1台車が必要
・江戸時代の雰囲気が残って、文化が深い
・自然と歴史的建造物を見る以外の娯楽は皆無
・海が非常に美しい
・魚介類がおいしい
・住めば都
・田舎暮らしを望むなら快適、そうでないなら苦労する
・「●●さんの娘さんがパチンコをやってた」なんていう情報はあっという間に広がる

※念を押しますが、これらは私の意見でなく、掲示板の回答に書かれていた内容です。

ありがたいことに「江差町に移住したい」というお話は、私のまわりでもよく耳にします。多くは都会に住んでいる方で、この田舎まちに魅かれ、移住を計画するようです。
ただ、そうしてこのまちにやってきて、何年も江差町で暮らす方が時々こんなふうにこぼすのも耳にします。

「いつまでもお客さんなんだよね」
歓迎はされているけど、江差の人間にはなれないんだよね。

さて、このお気持ち、実は私も少なからずわかります。
私からするとそれは南北海道最大のまち・函館に対する気持ちです。憧れもあり、生活圏でもあって(片道2時間かかりますが、私にとってそれは生活の一部なのです)、そこに心の境界線はないのですが、函館側から見た江差は、あくまでも“片道2時間のよその町”です。
北海道外のお客さまに「五勝手屋さんの羊かんは、函館を代表するお土産だよね」と言っていただくことはあっても、自分たちから「函館名物です」とは決して決して名乗れません。

「いつまでもお客さんなんだよね」
歓迎はされているけど、函館のお土産にはなれないんだよね。

移住をしてきた人も、もともと暮らしている私も、江差町というまちを愛し誇りに思って暮らしながらも、ときどきふと感じているもどかしさ。寂しいといえば寂しいような、そんな感覚。
都会からやってくるひとを「いらっしゃい」と歓迎する気持ちと、もともと住んでいたひとが戻ってくるときに「お帰り」と受け入れる気持ちの違い。そこには、江差町のことをいわゆる「故郷」と呼べるかどうかの違いがあるようにも思いますが、これもまた人それぞれなのかもしれません。

今回は、田舎暮らしならではの、ひそやかなお話。良いか悪いかはわかりませんが、田舎に暮らしていると感じる「線」のようなもののお話でした。