連載:一月一話

第17回 2023年9月

まちの和菓子とは。

先日とある勉強会で、“地域産品を活かした商品づくり”といったテーマでレポートを書きました。書きながら、地域に根付き、その日常に溶け込んでいたまちの和菓子屋が、今どんどん少なくなっていることを改めて思い、寂しく感じました。

地域の和菓子屋が減るということは、その土地のオリジナルのお菓子がなくなっていくことにもつながります。全国どこに行っても同じような商品が並び平均化してしまう、なんていう、つまらないことにならないよう、まちの和菓子屋の一端としてその意味を意識していなければいけません。

大きく見れば、まちの和菓子屋が減っていくことは、季節や行事を愛でるという和菓子文化そのものが薄れていくことにもなります。
それに、和菓子にはその見た目や味、何気なく手にしたときの感覚に、ふいに子どもの頃や昔の思い出をよみがえらせるという、記憶のよりどころになる役割があるとも思っています。
そういう意味からも、和菓子屋が減ってしまうことで、いろいろな機会そのものが減っていってしまうことがとても寂しいのです。

何かのきっかけですっかり記憶の底に沈んでいた出来事を、突然鮮明に思い出した瞬間、ご経験ありますでしょうか。お客さまの中には、五勝手屋羊羹を糸で切るという行為そのものに、懐かしい記憶を覚えてくださっている方もいらっしゃるのではと思います。

今回は少し寂しい話題となってしまいましたが、伝統や歴史といった“過去”に比重を置かれがちな和菓子において、五勝手屋は過去のものではない、今の和菓子づくりを心がけています。それこそが和菓子がいつまでも残り続け、記憶のよりどころとして人びとのそばにあり続けられる唯一の方法だと思っています。

幸いなことに、一部では世代交代が進み、【本和菓衆(https://gokatteya.co.jp/apps/note/?p=156)】のような新たな和菓子づくりのかたちに取り組む兆しも出てきています。私たち五勝手屋はいつも時代と共にあり続けるよう、日常に溶けこむ“まちの和菓子屋”であるよう、日々精進しています。