連載:一月一話

第22回 2024年2月

2月、ひそかなお楽しみ。

朝つくったものが夕方には売り切れて、日々日々、そうしていければ良いのですけれど、この商売、そんなに上手くはいきません。たくさん売れるとき、売れないときと波があって、とりわけ2月はちっとも忙しくない、“売れないとき”です。
あるときから、この売れない2月は江差町を飛び出して都会のデパートの催事に出店するようになりました。いわゆる“出稼ぎ”というもので、準備からいろいろと大変ではありますが、私はこの催事によっておのずと必要になる【出張】がとても好きです。

振り返れば、家族旅行の思い出すらありません。そのためでしょうか。剣道をやっていた子どもの頃、試合に勝てば全道大会で別のまちへ泊りがけで行けたことが、大きな大きな喜びでした。試合に勝つことよりも、そちらのほうが重要だったくらいです。

そんな子ども時代の感覚がくすぐられるのか、あくまで仕事であっても、デパートの中にこもりっきりでも、心が弾み、出張は何度行っても新鮮です。そしてもちろん、たくさんの方にお会いできることや、前回よりも面白く、より喜んでもらえるよう考えることも非常に楽しいこととなっています。

そうして今では、お盆や年末年始といった繁忙期以外はどこかの街にお世話になりながら、五勝手屋の味をご紹介するまでになりました。もし見かけることがありましたら、ぜひにお立ち寄りください。この2月は東京・日本橋の三越さんへの出店を予定していますので、どうぞご贔屓に。

2月、我が江差町は曇天が多く、たば風が吹きすさんで凍り付く季節ですが、東京はいつも晴れ。朝、はっきりと明るい太陽の光を浴びながらデパートへの道を歩くことが、私にとって、この上ない楽しみになっています。