連載:一月一話

第32回 2024年12月

去っていくもの、手放すもの。

新天地へ旅立ったり、あるいは亡くなられたり、今年を振り返ってみると、長い付き合いのある方が遠くへ去っていく、ということが集中した一年でした。
たとえば25年間、私の髪をお願いしていた美容師さん。人見知りでたわいない世間話が苦手な私にとって、彼は無理に話をしなくてよい気の置けない人でした。彼が新天地へ去ってからというもの、今は別の方とまたイチから新しい関係をつくる“試練”に向き合っていますが、幸い、その彼が紹介してくれた新しい美容師さんがとても上手な方なので、幸先は良いと感じています。

去っていった方が多い一方で、私自身も今年、いつも身を置いていたところから離れる、ということをしました。それは全国の老舗和菓子店の若旦那衆が集まって開催する『本和菓衆』というイベントです。
本和菓衆に参加するにあたっては、毎回和菓子の新しい可能性を模索してきましたが、そこで培ったものを別の形に昇華させたい、冒険したい。そんな気持ちが大きくなって今年は本和菓衆をお休みし、そのぶん、地元江差やお隣・函館で新しい角度の五勝手屋の見せ方を試みました。

大きなものでは函館蔦屋書店で行った『五勝手屋の擬音と擬態』、また、レクリエーション的なものでは江差町で有志と開いた『海の見える喫茶店 O/S/T』というもの。
前者は育てていくべきものという大きな手ごたえを感じましたし、後者は大勢の方に五勝手屋のお菓子とコーヒーをお楽しみいただき、私自身もたくさんの方とコミュニケーションをとれた楽しい一日を過ごしました。

いつもの場所から離れることで生まれるものや獲得できるものがあり、否が応でも手放すことで否が応でも新しいものが手に入る、という人生の理(ことわり)のようなものを改めて感じた一年でした。だからきっと、去っていった方々のあとにはまた新しい出会いがあって、思いがけない物語が生まれるのかもしれませんね。
さてさて来年も、どんなことが待っているやら。どうかお手柔らかにと天にお願いしつつ、2024年の連載を締めくくりたいと思います。

本年も五勝手屋をご愛顧いただき、誠にありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
皆様、どうか良いお年をお迎えください。

五勝手屋本舗/小笠原敏文