連載:一月一話

第34回 2025年2月

パリ、ウィーンにて。

昨年秋頃のことですが、同業のお菓子屋さんの集まりでヨーロッパへ行ってきました。
総勢25名ほど、約一週間のパリ・ウィーンへの旅です。観光もしていますが、私の一番の楽しみはやはり食べて飲むこと。ここぞとばかりに異国の食文化に触れてきました。ちなみに、滞在した街のスーパーにも足を運んでいます。旅先の市場やスーパーを覗くの、楽しいですよね。今回も現地の日常の一端を垣間見てきました。

印象に残っているのは旅の中盤で見学に行った、チョコレート職人パトリック・ロジェ氏の工場です。パトリック・ロジェ氏はフランス最優秀職人(MOF)の称号をもち「チョコレートの芸術家」とも呼ばれる一流のショコラティエとして名声を博している方。
ここは、チョコレートの製造場所にオフィスや図書館のような空間が一体となっているのですが、すべてガラス張りで中の様子が見えるようになっています。見学している目線では、職人の姿からオフィスで働く人々、そしてその向こうに見える広い庭までが“景色”として見えています。

工場のつくり自体とても良かったのですが、個人的には、その“景色”の中に最先端でありつつも、どこか古さをともなった独特の雰囲気を感じることができ、ある種の「間」のようなものを感じたのが印象的でした。
フランスの食文化、お菓子の伝統を受け継いでいるところに、その理由があるのでしょうか。感覚的なことでうまく言えませんが、五勝手屋がいつか工場を建て替えるときがきたら、私たちも私たちなりの「間」のようなものをお見せできたらと思います。

最終日は自由時間があったので一人でルーブル美術館へ。
名画に囲まれている中、そこでふと感慨深い思いがこみ上げてきました。
和菓子に携わって数十年、大学卒業後、就職先がなくやむを得ず家業を継ぐ、という消極的理由でのスタートから、今では同業の諸先輩たちと共にヨーロッパ旅行までしている。若い頃の自分には想像もできなかったこの現実を改めて認識し直して、しみじみと感じ入ってしまったのです。

はたから見ると名画に感動して涙目になっているシチュエーションですが、心は店やお菓子、これまでのことでいっぱいでした。ちなみに、絵については目にした作品のほとんどが知らないものだったことは秘密です。(笑)

家族に『かえる』の財布を持たされたおかげか、無事に帰国して旅は終了。
今回は、伝統の中に新しさを探求するチョコレート職人の姿をこの目で見ることができたり、私自身の振り返りもできたとても良い旅でした。
持ち帰った経験は五勝手屋で、これからのお菓子づくりにつなげていければと思っています。やはり、外に出ること、自分の知らない世界に触れることで気づかされることは多々ありますね。