第35回 2025年3月
近頃、ワインが楽しくなっています。
出張で札幌に滞在中、ワインバーに行きましたら、そこで出会ったソムリエの方の話が面白くて、好奇心をおおいにくすぐられました。ちなみに、ワインの話といっても“うんちく”的なことではありません。その方の、味わいに関する解説がとても面白いのです。
たとえばスパークリングワインを飲んだとき、「苦い味がする」と感じたことをそのまま伝えると「それは“鉄臭い味”ですよ」と、具体的であったり、的確な表現でその味わいについて細やかに教えてくれます。
ワインを語る“言葉”に興味を抱いたのは、私のお菓子づくりが具体的な言葉ではなく抽象的なイメージを発想のスタートにすることが多いから、なのだと思います。
もちろん花や魚をモチーフにした上生菓子などもありますが、怪しさや背徳感を表現した『夜更けて』や生命の輪をテーマにした『回/Re-Fruit』など、お菓子の背景にあるコンセプトを重視したものが目立っているように思います。
和菓子はお茶の世界に通じていますから、ストレートに味を追求するだけでなく【茶の湯】の審美性に見合う情景や情緒といったものの表現も伴います。そのことから、これまでは頭でっかちに考えを巡らし、季節の情景、シーンをイメージしてお菓子づくりをしてきましたが、この度ソムリエに出会って、ふと、気づきました。
彼らが具体的に表現するように、お菓子の味を具体的な【言葉】で想像してみるのも、アイディアのきっかけになるのではないか―。
そのことに気づいてから、パアッと視界が明るく開け、とってもワクワクしてきました。
もう間もなく春ですが、雪が溶けたらまた札幌へ出向いてワインバーに行くのが楽しみです。例のソムリエに会って、またいろいろなワインの言葉を聞いてきたいと思います。
新しいお菓子のきっかけに出会えるかもしれません。